結婚前夜、俺はずっとナンバーガールを聴いていた

 

 信じられないかもしれないが、ナンバーガールが最初に解散したとき、俺はまだ25歳だった。

 

 現在は45歳の夜更かしができないおっさんで、飲み会も17時集合の20時解散。「ねむらずに朝がきて ふらつきながら帰る」ことなど到底不可能なお年頃になってしまいました。

 

 25歳の俺と45歳の俺と、もちろん色々と違うが何がいちばん違うかというと、25歳の俺は独身だったが45歳の俺は結婚をしている。俺は思い出します。結婚する前の数週間、まもなく妻となる女性を助手席に乗せながら、俺は車の中でずっとナンバーガールを聞いていた。それも青春ギターポップの叙情色濃いファーストやセカンドではなく、最後のスタジオアルバムでありもっとも異形の作品『NUM-HEAVYMETALLIC』ばかり流していた。

 

 気の毒なのは妻である。まもなく夫になろうという人の運転で出発するとカーオーディオから再生一番「気をつけぇーー!!!」と奇怪な男の蛮声が響きわたり、奇怪なギターサウンドに乗せて奇怪なボーカルが「鉄の小太鼓どんしゃん鳴らし 鎖の三味線 春の声」など奇怪な歌を歌い上げる。もっと結婚ムードを盛り上げるディズニーの主題歌とか、なんかいい感じの洋楽ナンバーとかそういうのが流れてくるのかと思えば、春猫音頭だの無常節だの、私はいったい何を聞かされているのか、どういう気持ちで聞いていればいいのかと、妻は無表情のまま訝っていたに違いない。

 

 おそらく、あれは俺なりのマリッジブルーだった。25歳、若さとエネルギーを持て余し、得恋も失恋もいまだ知らなかった孤独と懊悩まっただ中の時代。その青春の記憶と分かちがたく結びついた『NUM-HEAVYMETALLIC』というアルバム。結婚という人生の一大転機を前に、束の間、あのころのomoideが懐かしくなったのかもしれない。そんな気がする。なればこそ、その青春、25歳の俺を供養するための念仏は『NUM-HEAVYMETALLIC』でなければならなかった。

 

 ギターによる焦燥音楽。断層を超えてしまった俺に、当時と同じ感覚でナンバーガールを聞くことはもうできないのかもしれない。そんな聞き手の思いを知ってか知らずか、2019年に再結成したナンバーガールは2022年冬、再び解散した。また20年後くらいに再々結成して、俺のいちばん好きな『ミニグラマー』を聞かせてくれたら嬉しいと思う。

 

 ちなみに妻とのドライブ中にはZAZEN BOYSもときどき流していますが、「パンツ!! パンツ!!」と叫ぶボーカルに妻は笑いながらヘンな歌とは言ってくれず、無表情で聞いています。