さいごは考古学者として砕け散った男

※ネタバレ全開です。未見の方はご注意ください。

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大事なことなので2回言いました。

なんとはなしにインディ・ジョーンズシリーズ第1作である『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』を見返したりしているんですが、そのクライマックスシーンにおいて子供のころは気づかなかったことに最近気づきました。

このお話はご存じのとおり、モーセの十戒石板が納められているとされる「アーク《聖櫃》」をめぐって主人公の考古学者インディとナチスドイツが熾烈な争奪戦を繰り広げる大冒険活劇で、インディのライヴァル的存在としてベロックという考古学者が登場します。

ベロックはインディが命がけで見つけた宝を横取りばかりしている嫌な奴で、ナチスのアーク捜索をも主導し、彼らに先がけてインディが地下遺跡で発見しようやくのことで運び出したアークも、あっさりとベロックの手に落ちてしまいます。

その後、インディはアークの奪還に成功するものの、再びナチス部隊による襲撃を受け、インディはヒロインであるマリオンとともに捕われの身となり、アークはベロックの主宰によるユダヤの儀式において、ついにその蓋が開かれます。

最初は砂が入っているのみと思われたアークでしたが、ほどなくして中からは無数の精霊が飛び出してきたのです。精霊たちは自分たちの封印を解いた者の意図を探るように辺りを飛び回ったあと、怒りの形相へと変貌します。

同時にアークからはもうひとつ、火の玉のようなものが立ち上り、そこから発せられた光線はナチス兵を一人残らず貫通し、祭壇の上、アークの間近にいたベロックと、ナチス高官ディートリッヒ、ゲシュタポ工作員トートの3人はその炎に焼かれ、無残な最期を遂げます。

ちな博識のインディは「一部始終を見なければ大丈夫」ということを知っており、一緒に目を閉じていたマリオンとともに難を逃れたのでした。

アークが開かれるこのクライマックスの場面はもちろんCGなど使われておらず、すべて光学合成による特殊撮影ですが、いま見ても非常に見応えのあるスペクタクルになっています。悪の御三家であるベロック、ディートリッヒ、トートは特に手の込んだ、印象的な死に様を見せつけてくれます。で、ぼくが今回見なおして思ったのは、終始、ベロックがすごい嬉しそうなんですよ。

美しい女性の顔をした精霊が怒りの表情へと豹変(この顔は本当に怖い)すると、ディートリッヒもトートも恐怖のあまり硬直して悲鳴を上げるだけなのに、ベロックは恍惚としたままだし、アークから出てきた炎に包まれた後も、砕け散る瞬間までずーっと嬉しそうなんです。

なんなんでしょうかこの人。Mにもほどがあります。

そして気づきました、敵役ながらベロックもまたインディと同等か、あるいはそれ以上に純粋な考古学者だったのだと。

探し求めていた伝説のアーク、彼はその禁断の蓋を開けたことにより、神の怒りにふれ、神の炎に焼かれて死ぬ。ある意味、これ以上に考古学に殉じた最期があるでしょうか。

あたり一面を飛び回る精霊たちを見たベロックは、彼以外の全員が恐怖と不安の入り混じった表情を見せる中、ただ一言 "beautiful!!" と叫びます。テレビ版の日本語吹き替えだと「素晴らしい!!」になっていたので、ぼくはそのときはベロックの考古学にかける情熱に気づきませんでした。美しかったのです。彼は「ベルリンに持っていって総統の前で開けたとき中が空っぽだったでは済まない」と理由をつけてこの儀式を強行しました。でも本当は総統なんてどうでもよかったんでしょう。

ただ純粋に考古学の徒として、アークの中が見たかったんです。そして中を見た結果、おそらくこうなるであろうことも彼は分かっていたような気がします。

インディが目を開けたときにはすべてが終わっており、ただアークがそこに鎮座しているのみでした。インディはアークの中身を見ていません。ベロックは、命を代償にその全貌を目撃しました。果たして考古学者としてどちらが本懐を遂げたのか、その判断はここではやめておきます。