ニュー・ホライズンズの冥王星最接近に寄せて

 3時間ほど前の日本時間午後8時49分、探査機ニュー・ホライズンズが予定どおり冥王星の最接近に成功しました。

 ニュー・ホライズンズ冥王星から1万2000キロというごく至近距離まで近づいたものの、通過時の速度は時速4万5千キロというとんでもないもので、そのスピードで直径2千キロあまりの冥王星を横切るわけですから、日常の感覚にすると新幹線の窓から通過する小田原駅のホームの様子を観察するようなものかもしれません。

 これはぼくの勝手な想像というか推測ですが、この探査プロジェクト関係者の中には、ニュー・ホライズンズ冥王星フライバイさせるのではなく、その表面にランディング (というか、激突) させたかった人が少なからずおられるのではないでしょうか。

 途中、木星に立ち寄ったりしたとはいえ、ニュー・ホライズンズはほぼ 「冥王星専用機」 なわけですし、なによりこの星を発見したクライド・トンボーの遺灰が積まれた機体なのです。 表面に衝突すれば彼の遺灰はほとんど未来永劫、冥王星に保存されることになるはずです。 文系的な発想としては、最高の物語です。

 いや、でも、それはないな、と。 もちろん膨大な予算が投入された探査計画であり、ニュー・ホライズンズにはまだ太陽系外縁部の調査という重要な任務がありますから、冥王星に着陸などというのはあり得ない話です。 それより、そもそものトンボー氏はどう思うだろうか、と考えました。 自分が発見者となった星まで到達することができ、文字どおりそこに骨をうずめたいと願うか、それとも天文学者として宇宙の果てのもっと果てまで行ってみたいと思うか。 やっぱり、後者のような気がします。

 地球を発って9年半、数十億キロの旅の果てにようやく会えた冥王星はほんの一瞬で過ぎ去りました。 二言三言、声をかける時間もあったでしょうか。 いつものように手をつないでダンスしていた冥王星カロンのほうも、突然現れて消えて行った闖入者にさぞかし驚いたことでしょう。

 ひとまずおつかれさまでした。 これから君が少しずつ送ってきてくれる、たくさんのエキサイティングな写真を、みんな楽しみに待っていますよ。

 だけどジェニー あばよジェニー

 俺は行かなくちゃいけないんだよ (沢田研二「サムライ」)