『紙とダイヤモンド』円盤鑑賞記

 

 脳みそが腐るほど悩んだ結果、東京行きを断念した3月の劇団Dotoo!公演『紙とダイヤモンド』のBlu-ray観賞記です。

 


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作・演出:福田卓郎

2020年3月27日、下北沢駅前劇場での収録

 

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 ぼくは宮地眞理子ファンなので、どうしても宮地さんにフォーカスした感想になりますが……。

 

 宮地さん演じるウェディングプランナー・木下(内田)渚はブライダル企画会社「ミラクル・ウェディング・ラボ」の支店長。ノルマ達成に向け、夫であり会社では部下の内田恭介(片平光彦)とともに次から次へとやってくる「まともじゃない」お客の対応に悪戦苦闘します。

 

 今回の宮地さん、全編出ずっぱりで、ほぼ主役といっていい役どころです。『月にむら雲~』でもかなり出番の多かった彼女ですが、『紙とダイヤモンド』では舞台上に不在の時間がほとんどない。劇場で生で見ていたら、ぼくなど宮地さんの見すぎで眼精疲労になっていたかもしれません。

 

 宮地さん=木下渚がこれだけ舞台に張りついていなければならないのには理由があります。彼女以外の登場人物が皆、どこかしら社会性というタガの外れ落ちた奇人変人狂人ばかりであり、放っておくとたちまち場がめちゃくちゃになってしまう状況が常であるため、彼女は自分のお客である奇人変人狂人たちを宥め、あやし、ときに諌め、ときにつっこみながら、職場すなわちこの舞台を正常にチューニングし続けなければならない。その役割ゆえ、袖に引っ込んでいるヒマがないのです。

 

 衣装のカラーでもそれが表現されていたように感じます。カラフルな服で登場する個性的な女性客らと対比されるように、木下渚が着用するビジネススーツは落ち着いたブルーグレー。各登場人物が赤や黄色や緑やと好き勝手塗り替えようとする色彩に、舞台の軸としての彼女はブルーのトーンを主張し続けるわけです。

 

 ただ一人、彼女の配偶者兼部下である内田のキャラクターだけが常識人の範疇にあるものの、彼は主人公ポジションにもかかわらず序盤から中盤までずっと傍観者に近い立ち位置で、目の前の事件・事態に対し妻ほど積極的には干渉してこないため、もっぱら木下渚の奮闘ぶりが際立つことになります。

 

 もっとも、彼女自身は、ミラクル・ウェディング・ラボ支店長として「キャンセルは出すまい」の一心で必死に仕事をしているだけであって、それゆえ時折ずれた言動や無茶な魂胆を見せるところもこのキャラクターの魅力であり、面白いところです。

 

 そうこうしているうち、夫である内田のある言動が引き金となり、木下渚はチューナーとしての役割を突如として放棄、内田と奇人変人たちを残したまま、とうとう退出してしまいます。調律師が不在となった舞台で、ようやく内田が物語の中心に立ち、冒頭からの伏線も回収され、『紙とダイヤモンド』は最後の見せ場を迎えます。

 

 ヤクザと元ヤクザの真剣勝負がケレン味たっぷりに描かれた『月にむら雲~』に比べ、『紙とダイヤモンド』はとても静かなクライマックスシーンです。ぼくはここへきてようやくタイトルの意味が分かったんですが、そういえば子供のころ家にあった湯呑み茶碗に紙からダイヤモンドまで全部書いてあったわ! 

 

 もうひとり、第三のキーパーソンとして風水師の鳴瀬(平川和宏)の存在について書かねばならないでしょう。ミラクル・ウェディング・ラボ関係者でもないのにほとんどずっと舞台上におり、ただのうさんくさい風水師かと思いきや、いつの間にかお話の核心に絡む重要人物となって、めちゃくちゃ良い台詞も言うし、彼の助言により置かれ視界の周辺をせわしなく移動する観葉植物や、クライマックス含めてなんやかんやでこのオッサンの言うとおりにしたら丸く収まったな、というのが笑いどころとしてじわじわきます。

 

 カメラは舞台全体を映すフィックスで、最後の大詰めの場面だけ少し寄りになります。個人的には、あの写真をアップで見たかった……。

 

 あと、3分ごとにチャプター分けがされていますが、後半だけ見たいときなど早送りするのがちょっと大変なので、暗転ごとに区切ってチャプター選択ができたらいいなと思いました。

 

 それにしても宮地さん、今回もハマり役でした。改訂版とのことでオリジナル版との差異は分からないのですが、とにもかくにも一所懸命な木下渚のキャラクターがテレビで見るいつもの宮地さんの姿とも重なって、大いに楽しませてもらいました。俺も平手打ちされたい。