ひゃくアップて言うな

 

 ファミコンのスーパーマリオブラザーズが発売されて大ブームになったとき、3-1でノコノコを使ってマリオの残機を好きなだけ増やせる有名な技がたちまち話題になった。

 

 当時、みなさんの周囲ではあの技のことを何と呼んでいただろうか。ファミマガの記事であの技に「無限1UP」「無限増殖」という、なんとも洗練された名称があるのを知ったとき、ぼくは衝撃を受けた。なんとなれば、うちの田舎では「100アップ」「1000アップ」などアホ丸出しの呼び方が定着していたからである。「おまえ100アップできた?」「きのう1000アップできたぜ!」といった具合に。

 

 百歩ゆずって百はまだ良しとしよう。千アップて。そもそもこの技で増やせる上限は128であり仕様上1000までは不可能なのだが、千アップて。とにかく多い=千や! みたいな小学生の短絡思考とアホさ加減が、洗練とはほど遠い「ひゃくアップ」「せんアップ」の響きに集約されているように思えてならず、コントローラーを握る友達がよっしゃ100アップいくで! などと言うたびにぼくは「いやその100アップって呼び方ダサいしやめようよ。東京の子たちはこれを無限ワンナップや無限増殖って言ってるんだよ……」と心の中で思いながらもちろん口には出さず、いや~100アップけっこう難しいよな~! とキャッキャ騒いでいたのであった。

 

 さらに学校からの帰り道には「スーパーマリオごっこ」と称する遊びが流行し、マンホールに乗ったら地下に入ったものとみなす、道端のゴミを拾うと100アップ、犬のウンチに触ると1000アップといった謎のルールが次々と成立し各自の残機は爆発的に増加、もはや昨日まで自分が何千機あったのか誰ひとりカウントできていない状態であったが、下校時のスーパーマリオごっこは実に楽しかった。小学生とはそういうものだと思っていたが、自分が大人になって登下校する小学生たちを観察してみても「100アップだぜ~!」と言いながら犬のウンチを探す子供を見たことがない。あのとき「100アップ」を共有できる世界に遊んでいたのは、もしかすると日本中でぼくらだけだったのかもしれないな。