『タケシとタツヤとマリコとライト』を観てきた話

 

注意!

この記事は激しくネタバレを含みます。

作・福田卓郎、タケシとタツヤとマリコとライト『フランクロイドは電気羊の夢を見ない?』は、今後も再演される可能性が高いです。

まだ舞台をご覧になっていない方は、ここから先の記事をお読みにならないよう、お願いします。

この作品は絶対にネタバレなしで観賞してください。

ここからネタバレあり

 

 

前回は長くなりすぎたので、今回はシンプルに行くぞ!

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〜巨匠の建築で三人芝居〜
タケシとタツヤとマリコとライト
『フランクロイドは電気羊の夢を見ない?』
作:福田卓郎

出演:前田剛 牧野達哉 宮地眞理子

場所:自由学園明日館 ラウンジホール

 

 

いやーおもしろかったですね!!

 

受付でチケットを受け取り、案内されるままホールの扉をくぐると、いきなり黒服のマエタケさんが話しかけてくるという超展開。

 

え、マエタケさん、キャストですよね?? いっしゅん他人のそら似かと思いましたけど、どう見てもマエタケさんっすよね???

 

もう何が起こっているのか分かりません。これ初見のマエタケさんファンはかなりびびると思います。ぼくも入ってすぐ宮地さんが客席案内係やってたらびびります。

 

初日は10杯が即完売したから今日は40杯ぶん増量したというコーヒー推しの強さ含め、すでに何かが始まっている予感が客席全体を覆う中、タケシさんによる前説(?)が始まった。

 

「本日、我々の説明は65分程度を予定しています」(「上演時間」ではなく「我々の説明」って何……?)

 

「携帯やスマートフォンは音を切ってください。『どなたですか!』とならないように、お願いします」(これも伏線でした)。

 

客席を見渡し、手に持った名簿をチェックしたタケシさんが「まだ何人か来られていない方がいらっしゃいますので……」と、言ってるそばから作業着姿のタツヤさんが登場して、「やられた!!」と思いましたよ。

 

ぼくたちが入口でチケットを受け取りホールに足を踏み入れたあの時、すでに舞台は開演していた!

 

タケシさんは客席案内係の役割を果たしながら、すでに「ブローカーのカキザキ」として我々を物語世界へと引きずり込んでいた!

 

つまり開場時間と開演時間に境目がなく、シームレスに日常から非日常へ連れて行かれる恐ろしい仕掛けだったのだ!!

 

まだ開演前だから……と油断していたお客は、いつの間にか自分たちがこの戯曲の世界で登場人物のひとりとして存在してしまっていることに気付かされ、慄然とする。この心地よい騙され感!

 

境目がないのは開演時間だけじゃない。ここにはもはや舞台と客席の区別もない。なぜならぼくらもこの裏口入g……もといファストパス斡旋会の参加者なのだから。演者(我々も含む)は、ホールの空間すべてを舞台として使う。後方暖炉前スペースも、窓の向こう側の外通路でさえも。

 

入場の際に手渡されたアンケート用紙も、終演後によく見ると、意味が分かってくる


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アンケートではなく「申請用紙」。「今日この日が素敵になりますよう」とか「お話をお聞きになってお思いになったことを」とか、妙に持って回ったこの言い方、ああ、そうかこれ、限定10名のファストパス申請用紙になってるのか! 凝ってる!

 

そしてマリコさん。タツヤさんの頭をバンバンにはたいてました。髪をバッとほどいて身分を明かすところ、カッコよかったですね。

 

マリコさんは言います。「ライトがどんな思いでここを設計したと思うの?」。その瞬間、ホール全体が祈りのような沈黙に満ちました。確かにお芝居はフィクションかもしれません。しかしタケシが語ったライトの壮絶なエピソードは史実であり、今我々がいるこの建築空間は正真正銘、ライトの手によるものです。この戯曲がここでしか上演できない理由、その極めつけが、マリコさんのこのセリフにありました。

 

ちなみにマリコさんが手錠を取り出すシーン、上着のポケットにはなくて、結局カバンの中から出してきたため「後ろ向いて」を2回やってましたけど、あれは台本通りなのかアドリブだったのか、判然としませんでした。なんかタケシとタツヤのリアクションが素ぽかったので……。

 

そのあと唐突に「レイチェルです♪」と名乗るマリコさん。タツヤさんが「なんだよレイチェルって」とつっこむのを聞きながら、ぼくも「なんだよレイチェルって」と思ってたら、『電気羊』の原作小説に登場する女性型アンドロイドの名前なんすね。お前は人間かそれともアンドロイドか? ブローカーか詐欺師かそれとも警官か? 全員が身分を偽って正体の探りあいをするこのお話の本筋が、符号として「レイチェルです♪」のセリフに込められていたのでしょうか。

 

最後、タケシもタツヤもマリコも外へ出て行って物語は幕を閉じますが、そのあと三人がホールへ戻ってくるまでの間、完全にほったからしになるのも面白かったです。まさにあの時こそ我々お客の演技が試されていたような気がします。

 

ライトの建築と空間を活かした、ここでしかできない舞台、想像以上の体験でした。ぼくらもそれぞれに自分の役を楽しく演じさせてもらいました。

 

関わったキャスト・スタッフの皆様に感謝を。お見事!